相続した不動産を売却しようとしたとき、思わぬところで立ちはだかるのが「越境」の問題です。「隣の塀がうちの敷地に少しはみ出している」「うちの屋根が隣に出てしまっている」——一見、小さな問題に見えますが、放置したまま売却を進めると、買主の住宅ローン審査に影響する場合や、引き渡し後のトラブルに発展することがあります。相続した不動産(土地・戸建)の売却をお考えの方は、ぜひ最後までご一読いただければと思います。
1越境があると価値が下がるのか?——「たいした問題じゃない」は危険です
越境の相談をしていると、「うちは昔からこうだから」「親の世代で話し合っていたことだから」と、越境の事実を軽く見ている方に出会うことがあります。しかし、その認識は大きな落とし穴になる可能性があります。
「隣と仲がいい」は売却後には通用しない
親の世代で隣地の方と良好な関係であっても、不動産の売却となると利害関係が絡むので必ず「良い関係のまま」という訳にはいかなくなります。特に相続不動産では「世代交代」により関係知が薄れてしまっていることや、関係家族が増えていることで意見も多くなりがちです。
売主が「知らなかった」では済まなくなるケース
越境の事実を知りながら買主に告知せずに売却した場合、引き渡し後に発覚すれば売主の契約違反を問われる場合があります。「大したことではないと思っていた」「昔からそうだったから普通だと思っていた」——こうした理由は法律上の免責にはなりません。越境は小さく見えても、売却後に数十万〜数百万円規模の損害賠償に発展したケースもあります。
買主の住宅ローンが通らず、せっかくの売却が白紙になることも
越境が未解消のまま売買契約を締結した場合、物理的に解消できない理由がある場合には(例:「屋根が越境しているが工事はできない」など)隣地所有者と互いに「覚書」を取り交わすことが一般慣習となっております。しかし実際の現場では、隣地所有者との意見の食い違いから覚書に合意してもらえないこともあります。この場合、買主側の住宅ローンに影響を及ぼすこともあるので注意が必要です。
越境を軽んじることの本当のリスク
越境問題は「今は誰も困っていないから放置」ではなく、「売却するタイミングで一気に顕在化する」性質を持っています。相続した不動産を売ろうとしたとき初めて、長年放置してきた越境問題の対処に追われ、売却スケジュールが大幅に遅れてしまった——そういったケースは珍しくありません。越境は、発見したときに早めに対処しておくことが、もっといえば「発見できるように測量して、未然に解決する」ことが将来の売却をスムーズに進めるための最善策です。
2越境・被越境の種類にはどのようなものがあるのか?
越境には、大きく「越境(自分の物が隣地にはみ出している)」と「被越境(隣の物が自分の敷地に入り込んでいる)」の2種類があります。それぞれの主な種類を見ていきましょう。
地上物の越境・被越境
ブロック塀・フェンス
最もよく見られる越境です。古い塀は境界線を意識せずに設置されていることが多く、数センチ〜数十センチにわたって越境しているケースがあります。相続した古い物件では特に多い事例です。
建物の軒・庇(ひさし)
建物の屋根の端(軒)や庇が隣地上空に突き出ているケースです。地上部分には越境がなくても、上空で越境が発生していることがあります。
樹木・枝・根
木の枝や根が隣地に越境しているケースです。2023年の民法改正により、一定の条件のもとで越境した枝を自ら切除できるようになりました。
物置・カーポート
後から設置された物置やカーポートが越境しているケース。リフォームや増築の際に境界を確認しないまま設置してしまうことが原因です。
地中の越境・被越境(売主・買主ともに事前確認が困難)
配管・排水管
隣地の排水管・下水管が自分の敷地の地中を通っているケース(またはその逆)。引き渡し後に買主が工事を始めて初めて発覚することが多く、撤去・迂回工事には多額の費用がかかることもあります。発覚後は速やかに隣地所有者と協議し、撤去または覚書の締結で対処することになります。
建物の基礎・杭
隣接地の古い建物の基礎や杭が解体後も地中に残り、境界を越えているケース。買主が建替え工事の際に掘削して初めて判明することが多いです。発覚後は撤去費用の負担について売主・買主間で協議が必要になるケースもあります。
擁壁の底盤(ていばん)
高低差のある土地では、境界線付近の擁壁(土留めのコンクリート壁)の底盤(地中の基礎部分)が隣地に越境しているケースがあります。地上からは擁壁の壁面しか見えないため、引き渡し後の工事で掘削して初めて判明します。擁壁が老朽化していた場合、撤去・再建費用が高額になることもあり、発覚後の対処が難航しやすい越境のひとつです。
3買主の住宅ローンに影響する?
越境・被越境の問題が売却に与える最も実務的な影響のひとつが「買主の住宅ローン審査」です。
「覚書」があれば、基本的にローン審査は通る
住宅ローンを組む際、金融機関は融資する物件に抵当権を設定します。越境が存在する物件でも、売主と隣地所有者の間で「越境物の覚書」が締結されていれば、多くの金融機関はローン審査を通します。
「越境物の覚書」とは、越境の事実を双方が確認し、「将来建て替えや工事を行う際に越境物を撤去する」ことを合意した書面です。この覚書は次の所有者にも引き継がれることが一般的で、金融機関にとっては「将来的にリスクが解消される担保」となります。
覚書が締結できない場合——価値は大幅に下落する
問題は、隣地所有者が覚書の締結に応じてくれないケースです。この場合、越境は「未解消・解決の見通し不明」という状態になり、売却への影響は一気に大きくなります。
金融機関は、覚書のない越境物件に対して以下のリスクを懸念します。
- 担保価値が正確に評価できない
- 将来、隣地所有者とのトラブルが発生して物件の価値が下がるリスクがある
- 越境物の撤去費用が突発的に発生する可能性がある
こうした理由から、覚書なしの越境物件は金融機関に融資を断られるケースがあります。住宅ローンが使えないとなると、買主はキャッシュ(現金)での購入者に限られることになり、買い手の母数が大幅に減ります。
4不動産売買の現場ではどうしている?
越境・被越境の問題は、不動産売買の現場では決して珍しくありません。特に相続した古い物件では、境界が曖昧なまま何十年も経過しているケースが多く、越境の問題を抱えている物件のほうがむしろ多いといっても過言ではありません。
ステップ① 現況確認・測量で越境の有無を把握する
まず売却前に、境界の確認と現況の調査を行います。隣地との境界が確定していない場合は、測量士に依頼して「確定測量」を行います。この作業で境界が明確になり、越境の有無とその範囲が把握できます。
相続した土地では境界標(境界を示すポイント)が失われているケースも多く、隣地所有者や行政との立会いが必要になることがあります。費用は一般的に50万〜100万円程度が目安です。
ステップ② 越境の種類・程度に応じて対処方法を選ぶ
越境の実態が把握できたら、対処方法を検討します。主な選択肢は以下の3つです。
売却前に越境物を撤去する
最もシンプルで確実な方法です。ブロック塀や軒の越境など、比較的撤去しやすい越境物であれば、売却前に撤去することで問題をゼロにできます。ただし費用と時間がかかるため、売却スケジュールとの兼ね合いを考慮する必要があります。
越境物の覚書を締結する
撤去が難しい場合や、越境の程度が軽微な場合に有効な方法です。売主・隣地所有者・(必要に応じて)買主の三者が覚書を締結し、「将来の建て替えや工事の際に越境物を撤去する」ことを合意します。この覚書は次の所有者にも引き継がれることが一般的です。
越境の事実を開示したうえで価格に反映する
覚書の締結も難しく、越境物の撤去も困難な場合は、越境の事実と将来の撤去費用を買主に正直に開示し、売買価格に反映させる方法があります。買主がリスクを理解したうえで購入を希望する場合、この形で売却が成立することもあります。
現場でよくある「隣地所有者が不明・連絡が取れない」ケース
相続不動産では、隣地も同様に相続が発生していて所有者が不明であったり、長期間連絡が取れないケースがあります。この場合、覚書の締結が難しく、越境問題の解消が難航することがあります。
5まとめ
越境・被越境は、相続不動産の売却で頻繁に直面する問題ですが、適切に対処することで売却への影響を最小限に抑えることができます。
- 越境があっても、適切に対処・開示されていれば売却は可能
- 越境が未解消だと、買主の住宅ローン審査に影響する場合がある
- 対処法は「撤去」「覚書の締結」「開示と価格反映」の3つ
- 知っていながら隠すと、売主の契約違反を問われるリスクがある
CONSULTATION
越境・被越境の問題、
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こうしたご相談を、私たちは日々多くいただいています。越境・被越境の問題は、放置するほど解決が難しくなり、売却の選択肢が狭まっていきます。一方で、早い段階で専門家に相談することで、思いのほかスムーズに解決できるケースも少なくありません。
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