相続した土地を売却したあと、予想もしなかった費用を請求されて困惑する方が少なくありません。「土地を売って終わり」と思っていたのに、売却後にトラブルが発生するケース——これは決して他人事ではありません。今回は、不動産・相続の現場に20年以上携わってきた経験をもとに、「契約不適合責任」の基本と実際のトラブル事例をご紹介します。

1売主として知っておくべき「契約不適合責任」とは

相続した土地を売却する際、売主には法律上「契約不適合責任」という責任が発生します。これは、引き渡した土地が契約内容と異なる欠陥を抱えていた場合、買主から損害賠償の請求や契約解除を求められる可能性があるという責任です。

土地の欠陥として代表的なものは以下の3つです。

地中埋設物(廃棄物・古い設備など)
土壌汚染
地盤沈下

これらは、買主が土地に建物を建てようとしたときに初めて発覚することが多く、「契約時点では聞いていなかった」という理由で責任を問われます。ただし、取引の当初から買主に伝えていた内容については責任の対象外となります。

相続土地特有のリスク:「知らなかった」では済まない

一般的な不動産売却と比べて、相続による土地売却が特に難しいのは、亡くなった親御さんが土地の詳細を把握していなかった、あるいは教えてくれなかったというケースが非常に多いからです。

重要: 売主である相続人が善意で「何も問題ない土地」と信じて売却しても、引き渡し後に欠陥が発覚すれば責任を免れない場合があります。これが相続土地売却の「怖さ」です。

2売却前にできる2つの対策

対策 ①

些細なことでも必ず告知する

「こんな小さなことは関係ないだろう」という思い込みが後々のトラブルの種になります。知っている不具合・気になる点はどんなに些細でも必ず買主に伝えましょう。「些細だから大丈夫」という判断が一番危険です。

対策 ②

免除・制限する特約を設ける

個人間売買では、契約書に「契約不適合責任を免除・制限する」旨の特約を設けることができます。ただし買主にリスクを転嫁することになるため、売買金額や交渉への影響が出る可能性があります。メリット・デメリットを理解した上で検討しましょう。

3実際に起きたトラブル事例3選

CASE 01 隣地の下水配管が敷地をまたいでいた 撤去費用 250万円

相続した築古アパートを売却し、買主が建替え工事を進めていたところ、隣家の下水配管が地中を通って敷地内に入り込んでいることが発覚しました。

配管の撤去・迂回工事にかかった費用は250万円。幸い、隣地の方の協力を得られたため工事はスムーズに進みましたが、売主・買主ともに全く予期していなかった事態でした。

隣地との境界付近には「見えない配管」が存在することがあります。特に古い時代の建物では、現代の基準では考えられないような配管経路が組まれているケースがあります。

CASE 02 月極駐車場の地中に廃タイヤが大量埋設 撤去費用 70万円

相続した月極駐車場を売却後、買主が整地工事を進める中で地中から大量の廃タイヤが掘り出されました。廃タイヤは産業廃棄物として適正処理が義務づけられており、撤去費用は70万円に上りました。

相続人はこの事実を全く知らなかったにもかかわらず、売主という立場上、費用負担を求められたケースです。

「何十年も駐車場として使われていた土地なのに」と驚かれていましたが、長年使用されてきた土地だからこそ、地中に何が眠っているか分からないという現実を痛感した事案です。

CASE 03 増築部分の真下に古い浄化槽が放置 撤去費用 30万円

ご両親が生前に増築した部屋の解体工事中、その真下からかつての浄化槽の残骸が発見されました。下水道が整備される以前に設置された浄化槽が、そのまま地中に放置されていたのです。撤去費用として30万円が追加で発生しました。

古い家が建っていた土地には、このように過去の設備が地中に残っている可能性があります。浄化槽のほかにも、古い井戸・化学薬品の貯蔵タンク・コンクリートガラなど、思いがけないものが埋まっているケースは珍しくありません。

4裁判所も認めた「地中埋設物」の怖さ——関連判例3選

上記のような現場トラブルは、実際に多くの裁判事例にも反映されています。以下に、今回のテーマに関連する代表的な判例を3つご紹介します。

判例 01 排水管・浄化槽の埋設が瑕疵と認定 賠償 51万9,000円
東京地判 平成16年10月28日

買主Aは売主Bから土地・建物を7,200万円で購入しましたが、引き渡し後に隣地所有者と共有・共用している生活排水管が地中に埋設されていることが判明。当初の予定通りに建物を取り壊して分譲できなくなり、Bに対して損害賠償を求めました。

裁判所は「生活排水管等が埋設されていることは土地の瑕疵に当たる」と認定し、Bに分譲先への解約違約金相当額51万9,000円の賠償義務を認めました。なお、分譲代金の下落分については「瑕疵担保責任における履行利益の損害には含まれない」として認められませんでした。

ポイント: 隣地との共用配管という「見えにくい埋設物」であっても、土地の瑕疵として認定されています。事例①(隣地下水配管の越境)とも状況が重なる判例です。
判例 02 産業廃棄物の埋設——免責特約があっても賠償義務 賠償 525万円
静岡地判 平成15年8月19日

買主Aは売主Bから土地を6,000万円で購入しましたが、引き渡し後に地中からコンクリート砕塊・木くず・ビニール塵などの産業廃棄物が大量に発見されました。売主Bは「いかなる名目の請求も行わない」旨の確認書(免責特約)を買主から取得していましたが、裁判所は「買主に十分理解させた上で承諾する手続きが踏まれていない」として免責特約の成立を否定。Bに除去費用525万円の賠償義務を認めました。

ポイント:「特約さえ入れておけば安心」という考えは危険です。買主が十分に理解・納得した上で合意していなければ、裁判で無効とされるリスクがあります。対策②の免責特約は、適切な手続きを踏んで締結することが不可欠です。
判例 03 工場跡地のコンクリートガラ——売主自らが瑕疵を認め賠償 賠償 179万9,700円
東京地判 平成22年8月30日

買主AはJT(日本たばこ産業)の工場跡地を購入しました。契約前に地上建物や地下ピットは解体・撤去されていましたが、基礎杭は放置されたままで、さらに地中からコンクリートガラや鉄筋の取り残しが発見されました。JT側が自らコンクリートガラの撤去工事を行いましたが、その影響でAの宅地造成工事が中断を余儀なくされました。

裁判所は、基礎杭の残置については買主Aが事前に重要事項説明書で把握していたとして瑕疵に当たらないと判断した一方、コンクリートガラ等については瑕疵を認め、工事中断によって生じた損害179万9,700円の賠償義務を認めました。

ポイント:「解体・撤去済みの更地」と説明された土地でも、地中にコンクリートガラ等が残っていれば瑕疵となります。また、重要事項説明書等で事前に告知されていた事項については責任を問われないという点も、対策①(告知の徹底)の重要性を裏付けています。

5まとめ:「まさかうちの土地に限って」は禁物

今回ご紹介した3つの事例は、どれも「まさかうちの土地に限って」と思いがちなケースばかりです。しかし現実には、このようなトラブルは決して珍しくありません。

相続した土地を売るとき、あなたは売主として契約不適合責任を負います。この重みを、売却活動のスタート地点でしっかりと理解しておくことが非常に重要です。特に相続土地は、亡くなった方しか知らない「見えない何か」が潜んでいる可能性があります。

相続不動産の売却をお考えの方は、こうした売却リスクをきちんと説明し、対策を一緒に考えてくれる信頼できる不動産パートナーを見つけることが、将来のトラブルを防ぐ最善策です。

【余談:地中埋設物トラブルを防ぐための特約について】
発覚した地中埋設物の写真を数枚だけ残して、処分後に事後報告で済ませる業者も存在します。売主の立場からすれば「本当にそこに埋まっていたのか?」という疑念が生じても不思議ではありません。こうしたトラブルを防ぐためには、契約書に地中埋設物に関する特別な特約を盛り込んでおくことが重要です。具体的な特約の内容については、専門家にご相談ください。

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